都合により、一部改変してあります。

 

 数年前、塾のバイト中に宮沢賢治の話になったことがありました。

私は「有名な話なので知らないハズは無いだろう」と考え、『銀河

鉄道の夜』や『注文の多い料理店』を挙げたのですが、生徒たちは

一様にポカンとして不思議そうな顔。聞いたところ、実に半数以上

が題名すら知らないという状況でした。

 その授業では方針を変え、内容的に幼稚かなと思いつつも『注文

の多い料理店』のあらすじを一通り紹介しました。すると、生徒た

ちはすぐに物語に引き込まれ、最後まで熱心に聞き入っていたので

す。

 作品が持っている威力も実感しましたが、それ以上に、生徒たち

は「おはなし」に興味が無いのではなく、単に触れる機会が少なかっ

たこと、そして「文学」に飢えていることを痛感し、驚きを通り越

してショックでした。

 自分のことになってしまいますが、私は幼い頃、かなりの数の絵

本を読んだり、読み聞かせてもらったようです。実際に読んでいた

記憶は、正直もうありません。しかし、先日、ボロボロになった絵

本が詰まった段ボールがいくつか出てきて取り出してみたところ、

表紙や印象的なシーンをかなり鮮明に覚えていたのです。この絵本

たちは私の心の中で静かに眠っていたのだろうと実感し、無性に嬉

しく感じました。

 童話や小説は虚構です。評論も机上の空論と断じればそれまでか

もしれません。が、読まれたものは、当人が忘れてしまったつもり

でも意識の底に確実に刻み込まれています。

 まだ読書の機会が少ない方には、読書を通じて心に財産を刻み込

んでもらいたいと切に願います。