子供企画版　シャーロック・ホームズの冒険

第２０話　『６つのナポレオン』
THE MAN WITH THE TWISTED LIP

〜２つの「パン」〜

　傑作、六つのナポレオン。これはかなり鮮明に覚えてましたが、冒頭シーンは何故か忘れてたんですね。
　その衝撃の冒頭シーンなんですが窓際でいきなりのうら若き女性の行水ぃーー！？　海綿で頭からゆっくり水をたらしたかと思ったらため息とか出しちゃって、し、舌とか出してるーー！　えろーー！　こういう露出度の少ない水浴びもいいっすね！！　うん！　どんどんやっていただきたい！！　もう１２回くらい見ちゃった☆　ま、わき毛は剃ってないけどな！！

　えっと、若干変態っぽく興奮してしまいましたが、この冒頭はかなりイカれてますね。というのはね、その行水女からのカメラの引きで、イタリアマフィアのドンがその行水を覗いてるという構図なわけですよ。ゴッドファーザーがノゾキ。で、カメラがパン（画面がヨコに移動）するとね、隣の部屋では兄妹で大喧嘩してる。「ベヌーチ家に泥を塗った！！」とか言ってるわけ。
　いやね、その微笑ましいシチューションに疑問を持っただけで僕の勝利ですね。なんでここで行水なのか。しかもこれはどうみてもエロい。エロさを全面に出している。これはね、完璧に作為的なんですよ。作為丸出しなわけですよ！

　ちょっとネタバレになるので色を変えます�<br> 　読みたくない方は推理してみてね。

　全く関係ないにも関わらず、このシリーズ中では屈指の、エロさを前面に出した演出をしている理由です。僕としては有頂天になるほど嬉しいけども、無駄と言えば無駄なんです。
　これね、自分がエロに過剰反応してるのかな、と始めは思ったんですけども、割と奥が深いんです。シリーズ中、性的な描写がないわけではない（「第１７話マスグレーブ家の儀式書」にも肉体関係を持つシーンがあります）が、ここでは、本筋にほとんど関係がない。オープニングのシーンですから。だから少し違和感があった。不自然なんですよね。だって、マフィアなのにノゾキはないだろう、と。せっかくの「マフィア」という設定がいきなりグダグダですよ。しかも、グダグダなマフィアを作りたいわけじゃない。実際、この話の中では一家内で殺し合いをしてます。
　では、そういった設定を脆弱にしてまで、なぜいきなりのエロだったのか。この直後の「喧嘩」に関係があります。ええ。「喧嘩の質」を決定させたがっているんです。実はこの喧嘩は、「六つのナポレオン」事件の核心になってしまう不祥事であって、それ以外ではない。ただですね、それを言ってしまうと推理の線分が長過ぎてちょっと易しくなりすぎる。また、マフィアに関する喧嘩でも、ちょっと線分に近くなる恐れがある。だから、逆に情報を増やすんです。喧嘩のやりとりはエロ行水のシーンにかぶせる形で展開します。

　妹が兄にしかられているのはなぜか？　というより、視聴者はどう理由づけるか？　画面はエロい。妹は兄にビンタとかされてる。後ろの絵画は寝そべっている女性。そう、オトコ、ですね。「マフィアにふさわしくない男と関係をもったのでわ？」と視聴者は思う。これが演出の意図です。喧嘩本来の意味をぼやかし、痴話喧嘩に見せかけているんです。
　精査してみると、会話のみでは「喧嘩の内容は寝たとか寝ないの話じゃないんじゃない？」と推察することも不可能ではないんですが、始めて見た時に映像や展開からそう断定することはほぼ不可能ですね。いかに映像という情報から自由になれないかということが実感出来ます。
　そういうわけで、本線がつながりにくくなると共に事件の端緒になっているんです。このオープニングの構想はすばらしいね。エロいし。

　さて、２つ目の「パン」ですが、これはベイカー街でのシーン。残念なことにNHK版では２分ほどが丸々カットされてるんですけど、かなりゆっくりめなパンでホームズ・ワトスン・レストレード警部が談笑しています。これはね、音楽もさることながら、会話も超グダグダ。すっごいグダグダ。そんな中でレストレードが「六つのナポレオン事件」をホームズに紹介するんです。NHK版ではジャスト・ワトスン・ナレーションです。
　この２つ目のパンには、上に書いた１つ目のように演出上の秘密があるわけではありませんけども、３人のよき友ぶりがわかるすごくいいシーンです。ラストでレストレードは最大限の賛辞をホームズに送るんですが、このシーンがあって映えるラストだと思いましたね。
　映像の力というのはおそろしいもので、絶対的な力で恣意的な方向に持って行くことができるようです。ホームズは本編で「よく観察し、記憶するのだ」と言う。手がかりになるからですね。
　また、僕がやってることも同じだと思うんですね。映像は、全て、恣意的に繋げられたものだと言っていい。だから「よく観察し、記憶する」こと、そしてそこに秘められた意図を繋げる創造性こそが僕の推理なんだと最近ようやくわかってきました。