子供企画版 シャーロック・ホームズの冒険
第1話
『ボヘミアの醜聞』A SCANDAL IN BOHEMIA
〜天才の苦悶〜
グラナダ・ホームズ、第1作。
DVDジャケ裏の紹介記事にもあるんですけど、「ホームズが頭の切れる凡庸な名探偵ではなく、高度な思考と精神を駆使する必要のない平穏な日常というものに、いかに苦しめられている人間かが丁寧に描かれています。」
そう、その苦悩は尋常ではなく、ホームズはなんと、コカインの7%希釈液を愛好しています。ホームズはこの第1話に限らず終始<コカイン常習者>で、日常に必要以上に退屈しているということがわかります。ドクター(ワトスン)が必要なわけですよ。ま、ワトスンは伝記作家ってことになってますが、医者だってのはその辺なわけね。
話として重要なのは「ワトスン要/不要論」ではなく、「ヤク中ホームズ」という"設定"です。すなわち、「コカイン」に代わるものが「事件」であり、ホームズは事件があるとHighになるということが、グラナダ版では明確にされているんです。軽く異常ですよね。名探偵というより<ちょっとヤバい意味で違う人>、という印象を受けます。
ただですね、これから関わっていく「事件」には、当然、人の心や尊厳を判らんような<見た目は普通だけど許されざる人>がたくさん出てきます。その人たちに対し、<ちょっとヤバい意味で違う人=ホームズ>は、あくまでも紳士として屹立するわけです。普通っぽいけど許されない者と、ヤク中だけど立派な紳士。こういった構図が実にはっきりと出ていると思いますね。
実は「コカイン」のくだりは、NHK版では全編を通じて完璧にカットされています。Highになったり、テンションがおかしくなったりするシーンも同様です。そうなると、登場から最後まで、NHK版では「紳士一辺倒」なわけです。正邪の対立が紳士か否かという単純な対比になってしまうように思えてしまい、薄っぺらい。一方、グラナダ版では天才であるが故の苦悩、人間であるが故の弱さが絡み合い、より深みのあるホームズ像が展開されていると思うんです。
ホームズの苦悶から始まる点、これはシリーズを通じて極めて重要なポイントになって行きます。
【今回の追記】 変装シーンがあるんですが、英語版を観るとジェレミー・ブレットの変装演技が異常に巧い。「英国恐るべし」って思うほど。これは必見。
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