子供企画版 シャーロック・ホームズの冒険
第16話 『第二の血痕』
THE SECOND STAIN
〜上り詰めた最強コンビ〜
いきなりちょっとだけネタバレなんですけども、今回の依頼人はなんと大英帝国の首相と外相ね! 第2話『海軍条約事件』依頼のどでかいヤマっす! どんな不遜な失礼な事をやらかしてくれるのかとワクワクするぜ!! ……とまあ、若干見所が間違ってる気がしますけれども、期待に答えてくれるのが我らがホームズです。
今回も前回同様、当初は事件の全容を知る事ができません。前回は名家の評判に関わることで、今回は「国家の最高機密」という理由。はい、ホームズ機嫌悪い。すごい細かいとこなんですがワトスンのおどおどする顔が一瞬映るんです。もうね、笑えてきますね。
ちょっと余談ですが、僕、映画とか誰かと一緒に見てるとリアクションが周りと全然違うのね。笑ってはマズい所で大爆笑する悪い癖があるので、極力知り合いと行くのは控えてますね。
で、機嫌の悪いホームズですが。
ホームズ1「両大臣閣下、お二人とも極めてご多忙な体でおいでになる。私もささやかながら仕事を抱えております。誠に残念とは存じますが、お役にはたちかねますので、これ以上お話をするのも時間の無駄かと存じます」
ホームズ2「……間違いなく戦争になると? では戦争の用意をなさい」
い、依頼人に背を向ける特技出たーー!!
しかしそこは首相。度量デカいです。今まで出てきた中で、僕の中では一番カッコいいすね。半歩下がって依頼するんです。
さて、今回は外交上の問題につながりかねない政治上の重大事件です。で、直接この事件にまつわることは避けますけども、この時代(19世紀末)における大英帝国の国際的な立場についてのシーンがカットされてるんで、勉強のために調べた事も含めて書いておきます。
ホームズが活躍するのは19世紀後半からになりますが、それ以前、18世紀後半から19世紀前半、イギリスでは世界に先駆ける形で産業革命が進みます。まずは木綿工業が飛躍的に発展し、その後蒸気機関の発明で機械化が急速に進められていきます。そして、1814年、スティーブンソンの蒸気機関車発明によって産業革命は交通革命へと波及し、イギリスは鉄道建設時代へと突入します。産業・交通の面で世界に類を見ないインフラが整備されるわけ。それまでは馬車ですからね。飛脚の時代に「バイク便が出来ました〜」みたいな感じ。まさに革命が達成されています。
こうして産業革命を経て構築された社会的および経済的基盤によって、イギリスは華やかな帝国主義へと舵を切っていくこととなり、さらにその圧倒的な技術・経済・軍事力は植民地政策に反映し、グレートブリテン、つまりは大英帝国が誕生する事になります。1837年に始まったビクトリア女王の治世ではアジアおよびアフリカに次々と植民地を増やし、女王はやがてインド女帝も兼ね、アヘン戦争、アロー号事件を機に中国にも進出。日本とも1868年に通商条約を結んぶことになります。
以上のような社会的背景は、これまでの事件のなかでも再三出てきます。インドに駐留していたとか、南アフリカで小金を稼いだなんていう具合にね。「帝国主義」は決して表面的な事象ではなく、全てのイギリス国民に影響を与えた文化だったとも言えるでしょう。
さて、カットシーンで首相が直々に講釈してくれる「国際高等政策high international politics」について書いておきます。
世界各地で占領(植民地)政策を展開している大英帝国ですが、ヨーロッパの中では中立を保っていました。ただ、富を独り占めしつつある大英帝国を心良く思っていないヨーロッパ諸国は多く、潜在的な敵は多くいたわけです。仮にその中の一国と戦争状態になった場合、これまで中立を保ってきたがゆえに、戦争状態になった相手国以外が国際政治上有利になってくる。重要なのはここで、イギリスの戦争を望む者は多いわけで(しかも国家レベル)、戦争・紛争につながりうる情報は極めて貴重かつ膨大な金につながるわけです。これが今回の動機になるとは言いませんが、「濃い線」の1つにはなっていて、厚みのあるドラマ構成になっています。
さて。
そんな壮大な策謀を思わせる一方で、今回、ホームズの女性観が語られています。ホームズは女性を苦手としていますよね。古畑任三郎のように女たらしでもないし、古女房のいるコロンボのようになんか枯れちゃっているわけでもない。苦手なので完全に避けていますね。その代わり女性の対応はワトスンがやります。(原作では3回も結婚してます)
で、ホームズはなんで女性を苦手としているのか。ションボリするコトがあったのかもしれませんが、結論から言うと理解出来ないんでしょうね。というのも、
ホームズ「女性の動機たるやまったくもって不可解なものだから推理の立てようも無い始末だ。実に些細な行動に重要な意味があると思うと、大騒ぎの原因がなんとヘアピン一本だったということもある」
ホームズは感情によって感傷的になることが極めて稀なタイプの男であって、そのため感情が直接的な動機になることがかなり少ないはずです。僕は常々思うんですけども、感情というのは動機の形成過程で相当な根拠があると思うんですよね。自分の快不快によって次の行為を決定するっての、よくあるんじゃないかなと。あまりにも感覚的感情的な動機が連鎖する性格だと、僕のように「客観的に見ると建設的な事が一切できない痴れ者」になりますが、普通の意味では感情は非常に重要なはずです。
ホームズはその点がよくわからない。心が「心理」として解明されていない以上、曖昧かつ非論理的である感情が動機になることは「論理的に」推定不可能ですね。
そういう意味で、ホームズは、近代哲学が完成しつつも心理学が誕生もしていない時代における最高の探偵、と言えるんではないでしょうか。
そういったわけで、この難事件を穏便に解決したホームズは、僕の見方ではこの回で、私立探偵として最高峰に上り詰めるのです。
p.s.ロンドンの街頭が「ガス灯」になっています。前回の田舎の松明と対比的で巧い!と思いましたが、そんなこと気付くヤツってどうよ?と思って勝手にへこんでいます。最近、ホームズの気持ちが分かってきました。僕の場合、SUNTRY「響」に逃げます。
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