子供企画版 シャーロック・ホームズの冒険

第19話 『もう1つの顔』
THE MAN WITH THE TWISTED LIP

〜友情の真意〜

 以前、何かで読んだことがあるんですが、日本のホームレスは世界最強らしい。日本に来た外国人が、新聞を読んでいるホームレスを見てびっくりするそうなんですね。識字率が高いってそんなにすごいのか〜と思った覚えがあります。
 今回、冒頭で「物乞い」が出てきます。これも読んだことがあるんですが、「物乞い」というのはある意味職業なんですね。ですからここでは「物乞い」と呼びます。で、現代の東京に比べて圧倒的に識字率の低かったであろう19世末のロンドンで、この物乞いがシェークスピアとかバイブルから引用した詩句を暗唱しているとしたらどうでしょうか。最底辺の人間に似合わない至上の詩句。このミスマッチがどれだけミスマッチかということは、日本のホームレスから推察することは不可能でしょう。たとえてみると"僕(30)がサッカー日本代表としてワールドカップに出てる"くらいミスマッチ。

要するに、当時の階級社会においてはほとんどあり得ないことなんです。その辺は事件の本線にもしっかり絡まって来ることです。

 さて、そういうわけでこの作品はイギリス社会(ロンドン)の<最下層>がかなり精密に描かれてるわけなんですが、ホームズはその象徴とでも言うべき場所、「阿片窟」に潜入しています。阿片。麻薬っすね。で、孤軍奮闘していたワトスンに見つかっちゃうわけ。

ワトスン「驚いたよ、あんな所で」

ホームズ「僕がついに阿片までやるようになったと思ったかね」

 ここはかなりさらっとしていますが、よくよく考えてみると日本語で麻薬についての暗示がされるのはかなり珍しい。おわかりだと思いますけど、「阿片まで」という日本版の脚本は、<コカイン常習ホームズ>を前提としてます。で、これがわかると2人の会話に深みが出てくると思うんだよね。
 ホームズは「ちょっとだけ吸った」と言い、「(依頼人の所まで)いっしょに来てくれるか」と続けます。ワトスンは「もちろんさ」と答える。いつものやりとりのようにも聞こえます。
 ただ僕はここに、彼らのある意味特殊な友情を感じます。

 

 直後の馬車の場面。ホームズは夜中にワトスンを誘って出かけた理由として「信頼出来る友であり、忠実な記録係だからだよ」と説明する。これは何度も言われていることで本心でしょう。でも、ワトスンの態度がおかしいわけ。
 ホームズの説明に対するワトスンのリアクションが冷たい。ワトスンはかなり優しい男なので、一見普通でも変なんですね。もちろん、その態度の変化に気付かないホームズなわけが無い。

ホームズ「ワトスン、あいにく君の声にはいささかの皮肉が感じられるよ」

ホームズ「ワトスン、どうしたのだ」

 けれども、ホームズはわからないんですね。その理由が。

ホームズ「まあ、人間(事件の対象者)の弱さに対する君の諦めの態度は無視して、(後略)」

 これは明らかに誤った推理です。ワトスンが腹を立てている理由はたった1つ。直接的には、ホームズが阿片を吸ったことです。理由はどうであれ、薬物から足を洗いきれていないことを心配し、怒っているわけですね。
 少し戻りますが、そういうワトスンの心情を汲んで、来てくれるかい? に対する<いつもの解答>を聞いてみよう。

ワトスン「もちろんだよ、ホームズ」

 ワトスンは医者だ。そしてホームズの人並みはずれた能力を知っている。ワトスンは、ただ乞われるがまま誘われるがままについて行ってるのではなく、ホームズを死なせたくないんではないかと思えるんです。
 つき合って行くのは大変でしょうが、ワトスンはその優しさゆえに、どんな困難な状況でも着いて行かざるをえないのではないでしょうか。……まだ明け切らない早朝に足をくすぐられて起こされ、馬車に揺られて出かけるような状況で「記録のために」ついて行きますかね。記録のためではなく、自発的な友情のためじゃないかなぁ。

 このワトスンに対する"患者"ホームズ。

ホームズ「君は寡黙という素晴らしい才能に恵まれている! たしかに睡眠不足という条件もあるがね」

 僕だったら、ぶん殴ってますね。眠みーんだよ!って言いながら。

 

 ところで、留守中のホームズ宅に依頼人が来て、最も尊敬すべき人、ホームズの使用人、ハドスンさんにこう言います。

依頼人「男の人って大人にならないのかしら。……いつまでも子供で……疑問に思いません?」

 い、痛いセリフ出たーー!!
 僕か? 僕に言ってんのか?

 これに対するハドスンさんの回答。

 

 ドキドキ……。



ハドスン「ちっとも疑問ではなくてよ。その通りですもの。だから女性が必要なんです。ある意味ではね

さ、さらに痛いセリフ出たーー!!

 

今回は以上です。

〜〜〜
第二シリーズはエンドロールの構図が軒並みかっこいいすよ。


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